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石田衣良「ブルータワー」

現実の象徴というメタな意図/言い訳を持たせてしまったからか、架空設定自体に説得力を与えることを省略した結果、「絵空事」に終始。

「池袋ウェストゲートパーク」の石田衣良。宮藤官九郎、堤幸彦繋がりで、TVの方は、一度観とこうかなぁ、と思っていたので、初のSF小説という触れ込みの「ブルータワー」を読んでみました。うーむ。酷い。

奥さんの浮気に悩む末期ガン患者が、突然未来へタイムワープ。未来は改造インフルエンザ<黄魔>で死にまくり、テロに向かわざるを得ない下層階級と、病から隔離すべく塔に篭もった特権階級との階級社会ディストピアだった、という類型的設定ではじまります。カタカナ、暴走族風当て字された現代と同じ名前のキャラが暮らしている、という架空設定=現実の象徴サインの連発や、やたらと21世紀初頭日本との対比を連発する描写の入る、という典型的な(架空設定を使うことにテレのある)ジャンル外の人が書いたSF。

後半は、救世主予言する老婆や、味方をかばって死ぬ仲間たち、というロープレ風盛り上げを連発し、仲間の死を思い出した主人公が根性で奇跡を起こして勝つ、というあまりにも安直な展開。そして、現代へ戻ると、何故かガンは治り、新しい恋人とくっついて目出度し目出度し。あんまりだ。

そりゃ、わたしだって、ぬるま湯ハッピーエンドは大好きですけど、テロとか問題を抱えた現実の積み重ねが未来に繋がる、といった過程無視して「根性で奇跡」ってのは、ラストだからハッピーにしましたっぽくて、馬鹿にされたような読後感でした。

未来に行けるようになる理由が全く説明されないし、末期ガンが治った理由も全く説明されないところを見ると、この「過程すっ飛ばし」に作者は自覚的なんでしょうけれど、その過程こそが、架空設定の、つまりは作り物である小説をただの「絵空事」にしない説得力を与えるはずなのですが。

宮部みゆきの「ブレイブ・ストーリー」(わたしの感想は20030319分日記に)も、同じく象徴意図があからさますぎ、ということで彼女の作品中ではわたしの評価が低いのですけれど、本作よりはずっとまし。

「ブレイブ・ストーリー」は、異世界では勇者になった主人公も、現実世界では只の子供であり、女の子と仲良くする、ということだって、そう簡単には行かないけれども、異世界で学んだ勇気で現実に立ち向かってゆこう、という等身大の視点エンドでした。その、等身大ぶりを示すってことが、象徴という、作者の特権的言い訳を利用した小説において、象徴であって実はウソっこな架空設定も、現実にも持っていける何かがあるのだよ、というメッセージを成立させる為に必要なのだと思います。

奥さんと離婚して、最初から主人公にベタ惚れている新恋人とくっついてしまう本作は、単に都合のいい展開というに留まらず、冒頭提示された筈の問題(浮気)をスルーしてしまっていて、特権的作者でない読者に対して説得をする気の無いことをよく示していて、架空設定は、実はウソっこのままの「絵空事」。

あと、後書きでは、ラストはE・ハミルトン「スター・キング」(わたしは未読)のオマージュみたく言及していて、設定借用小説なのかもしれません。そうだとすると、この文章は筋違いの物言いなのですけれど、でも、友との再開ネタは元ネタ関係なく、感動するだろうし。後書きでのSF云々は、小説自体から目を逸らさせるための作者の照れ隠しのような気も。

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